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神戸地方裁判所伊丹支部 昭和58年(ヨ)96号

債権者

長谷川圭市

債権者

前田正

債権者

山口幸雄

右債権者ら代理人弁護士

足立昌昭

川西譲

債務者

宝塚映像株式会社

右代表者代表取締役

福井英男

右債務者代理人弁護士

山田忠史

山田長伸

主文

一  債権者らが債務者の従業員たる地位を有することを仮に定める。

二  債務者は、昭和五八年一〇月一日以降毎月二五日限り、債権者長谷川圭市に対しては金二一万六一九五円、同前田正に対しては金一八万五五〇一円、同山口幸雄に対しては金二二万四六二二円を仮に支払え。

三  債権者山口幸雄のその余の申請を却下する。

四  申請費用は債務者の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  債権者ら

1  債権者らが債務者の従業員たる地位を有することを仮に定める。

2  債務者は債権者らに対し、昭和五八年一〇月一日以降毎月二五日限り、別紙賃金表(一)記載の金員を仮に支払え。

3  申請費用は債務者の負担とする。

二  債務者

1  債権者らの申請をいずれも却下する。

2  申請費用は債権者らの負担とする。

第二当事者の主張

(申請の理由)

一  当事者ら

1 債務者は、宝塚市に本社を有し、映像の企画・製作等を業とする会社(以下新会社ともいう)であり、債権者らは、申請外株式会社宝塚映画製作所(以下旧会社という)に雇用される労働者であって、毎月二五日、別紙賃金表(一)記載の賃金(ただし、昭和五八年三月から同年八月までの平均額)の支払いを受けている。

2 新会社及び旧会社に雇用される労働者は、宝塚映画労働組合(以下組合という)を組織しているが、債権者らはいずれもその組合員(債権者長谷川圭市は執行委員長である)である。

二  解雇予告に至る経緯

1 旧会社は、昭和五八年一月一八日、(イ)旧会社を閉鎖し、従業員六一名の新会社を設立する、(ロ)旧会社の従業員は全員退職し、新会社が必要数をひき継ぎ雇用する、旨の会社再建案を発表し、同年七月一三日、五三名の新会社採用者名簿を明らかにした。

右計画案によると、旧会社の役員を除く従業員は一二九名であったが、食堂・売店等のパート従業員二九名は別枠で採用されることになっていたから、その余の一〇〇名(組合員七八名、非組合員二二名)のうち、右名簿に登載された五三名以外の者は、職を失うことになる。

2 これに対し、組合は、旧会社の閉鎖に反対し、旧会社従業員全員の雇用継続を要求したが、新会社設立=旧会社閉鎖の構想が組合の意向を無視してすすめられていく現状を踏まえ、その際には旧会社従業員全員を新会社にひき継ぎ雇用するよう併せ要求した。

3 しかるに、旧会社は組合に対し、昭和五八年八月一三日、労使の合意をみぬまま、(イ)新会社採用予定者、(ロ)右予定者外で残務整理にあたる者、(ハ)退職する者の三区分からなる名簿を提示した。

右時点において、新会社採用予定者五五名、退職を希望する者三九名、退職を希望しないその余の者六名(うち三名が債権者らである)であった。

4 これに対し、組合は、前同日、旧会社との間において、退職を希望しない六名の者(以下債権者ら六名ともいう)については、別途協議する旨の合意が得られたため、(イ)退職希望者の退職条件、(ロ)新会社採用者の採用条件、(ハ)八月分給料の支払い、につき合意した。

右合意により、退職者は同月一三日付で、新会社採用者及び残務整理者は同月三一日付で退職した(退職金は支払われているが、退職届は提出されていない)。

5 しかるに、旧会社は債権者らに対し、同月三〇日及び翌三一日、前記合意を無視し、同年九月三〇日をもって債権者らを解雇する旨の意思表示をした(以下本件解雇という)。

三  解雇無効

以上のとおり、旧会社は、合理的な理由もなく、また、その理由も示さず、加うるに、債権者らとの間において別途協議する旨約しながら十分な協議を経ることなく、本件解雇予告を行なったものであるから、本件解雇は、解雇権の濫用であって無効である。

四  債権者らの地位

1 新旧会社の同一性

新会社は、昭和五八年九月一日設立された(旧会社の従業員五五名は新会社に雇用されたが、当然の如く雇用契約書は作成されていない)が、新旧会社は、以下のとおり、同一の企業体であって、法的にも同一性を有するものである。

(一) 資本系列 新旧いずれも阪急電鉄グループである。

(二) 資本金 旧会社一億円、新会社二億円であるが、いずれも阪急電鉄の全額出資である。

(三) 役員

(1) 新会社の代表取締役は、旧会社の代表取締役福井英男と旧会社の取締役篠田匡世の二名である。

(2) 新会社の取締役は、旧会社の取締役近藤司と阪急電鉄派遣の土田善久(阪急電鉄事業部長)、上田大悟(阪急電鉄宝塚経営部長)である(但し、土田、上田は非常勤)。

旧会社の取締役であった吉川静一、同越智昌志は旧会社の残務整理にあたる。

(3) 監査役は、新旧同一(歌橋至仁、阪急電鉄財務部長)(非常勤)である。

(四) 本店所在地 旧会社の本店は宝塚市栄町一丁目一番五七号であったが、これは登記簿上のものにすぎず、事実上の本店は新会社の本店と同じく宝塚市武庫川町六番二八号である。

(五) 営業目的

<省略>

右に対比したように、新会社と旧会社の営業目的はほとんど同一である。

なお、旧会社の目的のうち、土木建築、フィルム現像などいくつかが新会社の目的から外されているが、これは、旧会社の時点で既に営業内容から外されていたからである。

(六) 企業施設

新旧ほぼ同一である。

(七) 従業員 新会社の全従業員はほぼ旧会社の従業員と同一である。

2 債権者らの地位

右に述べたとおり、新旧会社は同一企業体であって、法的にも同一性を有するものである―すなわち、企業は資本と労働力の結合による動的な組織であり、労働関係は特定の経営者に対するというよりも企業そのものに結合したものというべきであるから、企業そのものが廃止されることなく存続する限り、労働関係は旧会社から新会社に承継されるべきである―から、旧会社の従業員は新旧会社のいずれに対しても労働契約上の義務履行を請求し得る地位にある。

五  保全の必要性

債権者らは新会社に対し、従業員たる地位を有することの確認を求めるべく本案訴訟の提起を準備中であるが、債権者らは、いずれも本件雇用関係に基づく賃金を唯一の生計の資としており、他に格別の資産を有しないから、本案訴訟の結論をまっていてはその生活を維持することができず、緊急にその地位を保全する必要がある。

(申請の理由に対する答弁)

一  一項1の事実は認める。ただし、平均賃金は別紙賃金表(二)記載のとおりである。

同項2の事実は不知。

二  二項1の事実は認める。ただし、新会社は従業員を新規に採用するものであって、旧会社からひき継ぐものではない。

同項2の事実は否認する。旧会社は組合に対し、計画案を十分に説明しており、その意向を全く無視して計画をすすめたものではない(新会社の要員を六一名とすることについても、職種別人員構成を明らかにして説明しているが、格別の異議は唱えられていない)。

同項3の事実のうち、労使の合意をみぬまま会社側の提案がなされた、との主張は否認し、その余の事実は認める。

同項4の事実のうち、(イ)ないし(ハ)の合意が成立した事実及び合意退職の事実は認めるが、その余の事実は否認する。旧会社は、退職を希望しない六名の者について―新会社へ採用しない旨の前提は崩せないが―一応再考の余地がないか協議する旨約したにすぎない。

同項5の事実のうち、合意を無視した、との主張は否認し、その余の事実は認める。

三  三項の主張は争う。後述「債務者の主張」のとおり、本件解雇は、企業維持のためやむをえないものであるところ、債権者らの解雇に至るまで、旧会社は、十分な交渉をし、債権者らの利益を配慮して、最大限の努力を払っているから、債権者らの主張は理由がない。

四  四項1の事実のうち、新会社の設立、新旧会社の資本系列、資本、役員、本店所在地及び営業目的の定款記載事項は認め、その余の事実は否認する。

同項2の主張は争う。

五  五項の主張は争う。

(債務者の主張)

一  本件申請の不適法

債権者らは、当庁に対し、本申請と「請求の主観的・選択的併合」の関係に立つ申請(昭和五八年(ヨ)第九二号)をなしているから、本申請は不適法である。

二  解雇の正当性

1 旧会社の業績は、昭和三〇年代の後半から、映画産業の斜陽化とともに年々悪化し、昭和四五年以降は、展示、催し物の企画設計製作、更には飲食業、娯楽設備、駐車場の経営等の分野に進出して経営の建直しを図るなど、種々の企業努力を重ねたが、毎年一億円ないし三億円の欠損金が生じ、経営状態は好転せず、昭和五八年度になると、累積欠損金は二〇億円を超すに至り、抜本的な建直しを図らなければ、別紙債務者の昭和五八年一二月二一日付準備書面記載のとおり、倒産必至の状態となった。

2 このため、旧会社は、会社の再建を図るべく、組合と策定会議を開催し、昭和五六年二月二七日から翌五七年四月一六日までの間、一三回にわたって会議を開催し、会社の経営状態を説明するとともに、組合の意見を徴した。そして、営業の速かな転換を図るとともに、要員調整による人件費の節減、事業の活性化を狙ったが、配置転換、職種変更につき従業員の協力が得られず、旧会社の継続を前提とする再建計画は挫折し、策定会議も暫時中断した。

3 そこで、旧会社は、企業維持を図るべく構想を練り、昭和五七年一一月四日再び策定会議を開催し、以後昭和五八年五月一一日までの間、二四日(ママ)にわたり次のような会社再建案を提示した。

(一) 営業は、映像部門(当面フィルムによるテレビ映画、PR映画及びビデオによる映像作り)、イベントホール部門(ステージをイベントホールに転用し、イベントの企画、ホール運営を行なう)、事業部門(宝塚営業、梅田営業、エキスポ射撃館運営)とする。

(二) 旧会社の従業員は、全員解雇(退職)することとし、新会社の要員は、営業目的と規模に照らし必要最小限度の少数精鋭とし、できるかぎり旧会社の従業員を採用することとして、次の構成とする。

<省略>

4 これに対する組合の回答は、総論的には賛成だが、各論的には留保する、というものであって、結局のところ、会社の構想には賛成だが、個別人選など組合員個人のことになると各組合員が十分理解するまでは確答できない、というものであった。

5 ここにおいて、旧会社と組合は、話し合いの場を策定会議から団体交渉に切り換え、昭和五八年五月一三日から同年八月一三日までの間、延三六回の交渉が重ねられた。

その間、同年七月一三日、旧会社は組合に対し、新会社に採用する人選表(前述のとおり、人員構成表は策定会議において提示済みである)を提示した。

そして、同年八月一三日、旧会社と組合は、旧会社の閉鎖と新会社の設立を前提とし、新会社に採用される者とそれ以外の者の選別を明らかにしたうえ、退職条件等について協定し、協定書を作成した。

6 かくて、右協定書に従い、昭和五八年九月一日、新会社が設立され、債権者ら六名を除く従業員は全員旧会社を退職した。

7 他方、旧会社は、前記協定の日から解雇の意思表示をなすまでの間、退職を希望しない債権者ら六名の者の処遇等につき、三役交渉、団体交渉を重ねたが、この点についての交渉は決裂した。

すなわち、団体交渉は、第三八回八月二二日、第三九回同月二四日、第四〇回同月二五日、第四一回同月二九日、第四二回同月三〇日、第四三回同月三一日に行なわれ、旧会社は、債権者ら六名を六一ポストのいずれの職種にも推薦できないことを繰返し説明するとともに、八月三一日付退職する場合には協定に基づく退職条件を適用すること、阪急傘下の企業に再就職をあっせんすること、職種によって仕事があれば臨時に再雇用すること、ポストの増設があれば優先的に雇用すること、を説明し、任意退職を促したが、債権者ら六名はこれを拒絶した。

8 そこで、旧会社は、昭和五八年八月三一日、債権者ら六名に対し、就業規則の「一部事業の縮小、廃止その他止むを得ない業務上の都合によるとき」の定めにより、同年九月三〇日をもって解雇する旨の意思表示をした。

9 なお、旧会社は、解雇後、九月に入ってからも、団体交渉には応じており、今日まで、紛争の妥当な解決を図るべく、真摯な努力を続けている。

三  新旧会社の関係

新会社は、債権者らが主張するように、旧会社の企業そのものを承継したものではなく、全く別個の企業体であって、両社に同一性はない。

すなわち、

(一) 営業目的

旧会社の主要営業目的は、「映画の製作・請負・売買・賃貸」であったが、新会社のそれは、「広告宣伝媒体の企画・製作・設計・施工・賃貸」と「イベントホールの運営・賃貸」であって、同一性はない。

(二) 資産

新会社は、経理、財務関係において新しい経済基盤に立つものであり、新会社が主要な営業部門において旧会社から承継し、転用し得る企業施設はなく(旧映画スタジオは、躯体のみを利用したものであって、多額の新規投資のもと新しいイベントホールに改修した)、借入金債務、労働債務の承継もない。

(三) 従業員

社外に優秀な人材を求め、新規に優秀な少数者を採用するのが好ましかったが、労使交渉の妥協の産物として、旧会社の従業員の技術の転用により、六一名の大半を旧会社の従業員から採用したものであって、新会社の六一名は、旧会社の人員構成の単なる縮小ではない。

(債務者の主張に対する反論)

新会社は、旧会社の企業を承継したもので、同一性を有するから、旧会社のなした解雇の意思表示は、いわゆる整理解雇に該るというべきであるが、新会社の人員数について、旧会社は、「必要な限度で少数精鋭」とするというだけで、それ以上合理的な説明をしていないし、退職を希望しない債権者ら六名に対し、別途協議を約しながら、十分な協議をしていないから、本件解雇は不適法である。

因みに、債務者が固執する「六一名」は、パート、臨時を除く一〇〇名を対象として案出されたものであって、それ自体が不当である(すなわち、人員整理は、剰員整理なのであるから、雇用契約の種別とは関係なく、全人員を対象とすべきである)が、昭和五八年七月一三日、旧会社が提示した採用者名簿によると、旧会社の従業員は五三名にすぎないから、なお、新会社は旧会社の従業員から、なお八名を採用する義務がある(しかも、現に、新会社の配置人数について、イベントホール二名、PR営業一名、製作管理一名、小道具・美術四名、大阪営業所一名の定員不足が生じている)。

(債権者らの反論に対する反論)

債権者らは、新会社の「六一名」のポストの全てに旧会社の従業員を充てるかのごとき協定の存在を前提にその主張を組み立てているが、そのような合意・協定は存しない。

なお、債務者は、既述のとおり別途協議する旨合意した債権者ら六名と、十分な協議をしており、この点においても瑕疵はない。

理由

一  疎明によると、当事者らの関係は、債権者ら主張(申請の理由一)のとおり(ただし、賃金については、別紙賃金表(二)記載のとおりである)一応認められ、本件解雇の事実(申請の理由二の5)は当事者間に争いがない。

二  そこで、申請の理由二(本件解雇に至る経緯)について検討する。

1  疎明によると、本件解雇に至る経緯は、概ね、申請の理由に対する答弁二(解雇の正当性)の1ないし6記載のとおりであるところ、加うるに、申請の理由二の4記載のとおり、退職を希望しない債権者ら六名の者については、別途協議する旨の合意が成立したものと一応認められる。

2  そして、以上の事実と、後述する新旧会社の関係を考え併せると、本件解雇は、いわゆる整理解雇の性質を有するものというべきである。

三  そこで次に、本件解雇の正当性(申請の理由に対する答弁=債務者の主張二の1ないし9)について検討する。

1  いわゆる整理解雇を行なうには、<1>人員整理の必要性があること、<2>人員整理の回避のため相当な努力が払われたこと、<3>解雇対象者の選定が、合理的な整理基準に基づくこと、のほか、<4>人員整理の必要性、整理基準等につき、労働者側に対し、十分な説明を加え、協議をなすこと、が必要な要件と解される。

2  そこで、これを本件についてみるに、申請の理由に対する答弁二の1ないし6記載の各事実が一応認められることは既述のとおりであるから、右事実によると、本件解雇につき、整理解雇の前記要件のうち<1>及び<2>の要件が充たされていることは明らかであり、疎明によると、<3>の要件が充たされていることも一応認められるが、<4>の要件については疑問がある(とりわけ、抽象的な基準―六一ポストの選定―はともかく、具体的な人選の基準―技術的能力、勤務態度、勤続年数、年令、家族構成等に基づく基準―は示されておらず、説得力に乏しい)。

加うるに、既述のとおり退職を希望しない債権者ら六名については、別途協議する旨の合意が成立しているが、疎明によると、旧会社は、右合意の際、退職を希望しない債権者ら六名を新会社に採用する意思は当初から全くもっておらず(因みに、もし、協定の際、組合が、右の事実を知っておれば、協定は不成立に終っていたはずである)、したがって、右合意成立後、確かに、三役交渉、団体交渉を重ねてはいるが、それは、既定の方針を繰り返えすことに終始しており、本件解雇に至る長い労使間の協議のルール、経緯等に照らすと、旧会社において、前記合意を履行したとはいい難い。

3  以上によると、本件解雇は、既述のとおりいわゆる整理解雇の性質を有するものというべきところ、右解雇に必要な要件に欠けるとともに、労使間の別途協議の合意に反するものであるから、解雇権の濫用として無効といわざるを得ない(既述のとおり、<1>ないし<3>の要件は充たされているものと一応認められるから、使用者は、解雇予告の時点に立ち返えり、<4>の要件 加えて、別途協議する旨の合意に基づく協議 を充たすべく、必要な説明(この点は、債務者の準備書面で、事実上かなりなされている)、協議をなすべきである)。

四  そこで、次に、新旧会社の同一性について検討する。

1  疎明によると、新会社は、以下のとおりの会社であると一応認められる。

(一)  資本系列 新旧会社いずれも阪急電鉄グループである。

(二)  資本金 旧会社一億円、新会社二億円である(いずれも阪急電鉄の全額出資)。

(三)  役員 新会社の代表取締役は、旧会社の代表取締役福井英男と旧会社の取締役篠田匡世の二名、新会社の取締役は、旧会社の取締役近藤司と阪急電鉄派遣の土田善久及び上田大悟(以上二名は非常勤)の三名、新会社の監査役は、旧会社の監査役の歌橋至仁である。

(四)  本店所在地 旧会社の本店は、登記簿上新会社のそれと異なるが、事実上の本店は、新会社と同じである。

(五)  営業目的 定款の記載を対比すると、申請の理由四の1営業目的の項記載のとおりである。

(六)  企業施設 新会社の営業の枢軸となるイベントホールは、旧会社の映画スタジオの躯体を利用したものであり、新会社の映画スタジオは、旧会社の射撃館を改装したものである。

(七)  従業員 新会社の従業員ポスト六一名のうち、五五名は旧会社の従業員である。

2  疎明によると、新会社設立の経緯は、前記二(解雇予告に至る経緯)記載のとおりであって、新会社の設立は、旧会社の人的、物的資源の承継を前提とするため、その企業としての存続を不能ならしめるものであるところ、新会社の設立は、旧会社の従業員の雇用の確保を主たる目的として進められたものであり、労使交渉においても、旧会社の役員(前記のとおり、新旧会社の経営陣にはほぼ変りがない)が新会社の雇用条件等につき実質的な決定権をもって臨んでいたものと一応認められる。

3  以上の事実関係に照らすと、旧会社の労働関係は新会社に承継されるものと解すべく、したがって、債務者は債権者らに対し、条理上、法人格の異なることを主張し得ないものといわざるを得ない(けだし、右のような事実関係のもとにおいて、旧会社の労働関係が新会社に承継されないと解すると、旧会社の従業員は、新会社の設立によって企業としての存続が全く不能になった旧会社に対してのみ雇用関係を継続し得るにすぎないから、新会社の設立なかりせば継続し得た雇用関係を失う結果―早晩衰弱死が必至とみられる会社であっても、新会社の設立は、一層その死期を早めるものである―を強いられることになるが、旧会社の企業としての存続・建直しを、旧会社の整理合理化の方法により図るか、新会社設立の方法により図るかにより、旧会社の従業員の雇用関係に、理由なき不利益を生ぜしめることになるからである)。

五  保全の必要性について検討するに、疎明によると、申請の理由五記載のとおり、債権者らはいずれも本件雇用関係に基づく賃金を唯一の生計の資としており、他に格別の資産を有しないものと一応認められるから、右賃金の支払いを受けられないまま本案判決の確定を待っていては苦(ママ)しい損害を受けるおそれがあるものと一応認めるべく、本件仮処分に必要性のあることは明らかである。

六  なお、債務者は、債権者らが、別途旧会社に対し、本申請と請求の「主観的・選択的併合」の関係に立つ申請(昭和五八年(ヨ)第九二号)をなしているから、本申請は不適法であるとするが、以上検討した事実関係のもとでは、そのようにはいい難い。

七  よって、債権者らの本件仮処分申請は、一部平均賃金の算定に誤まりがある部分を除き理由があるから、民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 佐藤嘉彦)

別紙 賃金表 (一)

<省略>

別紙 賃金表 (二)

<省略>

債務者の昭和五八年一二月二一日付

準備書面

「宝塚映画の事業廃止」

宝塚映画は事実上の倒産状態に陥り、昭和五八年八月末日を以って一部の残務整理を除いて事業全部を廃止するに至った。この点を会社の経理状況から若干敷衍する。

別表(略)(一)年度別収支表記載のとおり、宝塚映画は過去十年以上にわたり営業損益面で赤字を繰り返した。とりわけ最近八年間は、毎年一億円ないし三億円にのぼる損失金を計上し続けたが、この赤字計上の原因は主要営業部門である映画部門の不振による損失によるものである。そして当然のことながら、営業損失の継続は慢性的に資金不足を招き、金融機関等からの借入に依存せざるを得なかったが、借入金の累増とそれに伴う金利負担の増大の結果、前記別表(一)記載のとおり、経営損益ではさらに右営業損失を大幅に上まわる損失を出した。(その損失金の累積は昭和五八年一月末には金二〇億八五四八万円に達したのである。)

なお、各期末における借入金残高を経年的にみるならば、別表(二)記載のとおりであって、昭和四七年一月期において金一億九二九〇万円であったものが、毎年増加の一途をたどり昭和五八年一月期には金二一億六五四三万円に達しているものである。

また、所謂自己資本額(資本金と剰余金の合計額)についていえば、別表(三)記載のとおり、過去一〇年以上にわたりマイナス計上を継続し、昭和五八年一月期においては総資産額(金四億四八八三万円)の四倍を上まわる赤字(金一九億八五四八万円)となった。右赤字額は、会社資産の評価益(建物等の簿価と時価との差額、もっとも宝塚映画には差益を生じるようなみるべき資産はなかった。)を考慮したところで、とうてい補填しうるものではない。

右に述べたような経理状況からすれば、会社が既に事実上の倒産状態に陥っていることは明白であり、その結果、事業廃止のやむなきに至ったものである。

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